
千重子は「御旅所」の前に行って、蝋燭をもとめ、火をともして、神の前にそなえた。祭りのあいだは、八坂神社の神も、御旅所に迎えることになっている。御旅所は、新京極を四条へ出たあたりの、南側にある。
その御旅所で、七度まいりをしているらしい娘を、千重子は見つけた。・・・・・
娘は食い入るように千重子を見つめた。「なに、お祈りやしたの?」と、千重子はたずねた。「見といやしたか。」と娘は声をふるわせた。
「姉の行方を知りとうて・・・・・。あんた、姉さんや。神様のお引き合わせどす。」と、娘の目に涙があふれた。たしかに、あの北山杉の村の娘であった。
産まれてすぐ別々に引き裂かれた双子の姉妹の出会いと別れを、京都の美しい自然や風物詩を背景に叙情的に描いた文芸ドラマ。
ただ一度だけ姉妹水入らずの夜を過ごした二人。
苗子は翌朝早くに千重子をゆりさまして、「お嬢さん、これがあたしの一生のしあわせどしたやろ。人に見られんうちに帰らしてもらいます。」とひとり雪の中を帰っていった。